2010年代に入りよく耳にするようになった「スペシャルティコーヒー」という言葉。なんとなく聞いたことがある人が多いと思いますが、具体的にどのようなコーヒーなのかを説明できる方は少ないのではないでしょうか?今回はスペシャルティコーヒーを深く理解するために定義や歴史・文化的な背景を解説。この記事を参考にスペシャルティコーヒーにまつわる疑問点を解消しましょう。
2019.07.03
2010年代に入りよく耳にするようになった「スペシャルティコーヒー」という言葉。なんとなく聞いたことがある人が多いと思いますが、具体的にどのようなコーヒーなのかを説明できる方は少ないのではないでしょうか?今回はスペシャルティコーヒーを深く理解するために定義や歴史・文化的な背景を解説。この記事を参考にスペシャルティコーヒーにまつわる疑問点を解消しましょう。
*日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)…「2、日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)とは」で後述
フレーバーホイールをもっと知りたいという方はこちらの記事を参考にしてみてください「チョコレート、オレンジ、シナモン、ジャスミン... いま、コーヒーの味わいが、とてもおもしろいことになっています。」
日本におけるスペシャルティコーヒーは、「日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)」が定義を紹介しています。 日本スペシャルティコーヒー協会がどのような協会なのかと、その定義についてご紹介します。
日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)は、「スペシャルティコーヒー」に対する日本の消費者および世界のコーヒー生産者の認識を高め理解を深めることを基本構想とした協会です。
トレーサビリティ*とは、「流通経路」を現地調達の段階から生産、最終段階、および廃棄段階までが明確化され、消費者が追跡可能な状態を指します。近年品質向上や安全意識の高まりから、重要度が増している概念です。 食品、医療品、自動車や電子部品など幅広い分野で浸透している品質管理には欠かせないシステムです。
*トレーサビリティは、日本では「追跡可能性」ともいわれます。
スペシャルティコーヒーは高品質なコーヒーであることが必須事項であるため、「農園からコーヒーカップまで(From Seed To Cup)」の徹底した品質管理がなされていなければなりません。その徹底した品質管理を実現するために欠かせないのがトレーサビリティです。
コーヒーにおけるトレーサビリティは生産から流通まで追跡可能な状態を指します。トレーサビリティにより、流通経路が明確にされることで、「生産者」が分かるため、コーヒーの品質に対して、信頼性の担保となります。そのため高品質であることが問われるスペシャルティコーヒーにとってトレーサビリティは、切っても切れない関係にあります。
サステナビリティとは直訳すると「持続可能性」です。環境・社会・経済の3つの観点から世の中を持続可能にしていくという考え方のことを表します。 環境面では、「環境と開発は互いに反するものではなく、共存し得るものである。そのため開発においては環境の保全を考慮するべきである」という考え方*が、1987年ごろから広く認知されています。企業においても同様で、環境・社会・経済の3つの観点から世の中を持続可能な社会にしていこうという考え方を表しています。
*国連の「環境と開発に関する世界委員会」が公表した報告書「Our Common Future」(我ら共有の未来)1987年より
スペシャルティコーヒーは消費者だけでなく「生産者にも利益をもたらすコーヒー」であることを目指しています。そのため生産者の賃金が保障された生産体制であるコーヒー豆でなければいけません。加えてスペシャルティコーヒーで使われる場合には特に生産者の十分な利益を確保し、コーヒー栽培を継続的に安定して行うことができる状態を指して使われます。 またスペシャルティコーヒーにおけるサステナビリティは、生産者の賃金保障だけでなく、環境配慮、社会倫理への配慮についても含まれます。「生産者の生活を害しない生産体制の確保」という観点はスペシャルティコーヒーの大きな特徴です。
WCR(ワールド・コーヒー・リサーチ)により行われている取り組みが国際品種栽培試験です。WCRとはコーヒーの未来を考え調査・研究し持続的な栽培を行っていくことを目的に設立された非営利の研究機関です。
コーヒー業界は気候変動により産地が激減するとされる2050年問題*を抱えています。コーヒー栽培が困難になっていくと予想される中、国際品種栽培試験では気候変動の影響を受けにくい品種の発掘に着手。コーヒーの未来に向け、キーコーヒーもこの取組に参画しています。
2050年問題をもっと詳しく知りたい方はこちらの記事を参考にしてみてください『世界中で多くの人に親しまれているコーヒーですが、今、ある問題に直面しています』
スペシャルティコーヒーはコーヒーの歴史と文化の変遷により、コーヒーを高品質で持続可能なものにするため、品質管理や生産体制の新しいあり方を目指し生まれた概念です。こうした概念が生まれた理由としては、「大量消費の時代」のコーヒーの生産体制により、「消費者へとにかく低価格なコーヒー豆を」という価格競争が生まれたことが大きく影響しています。
大量消費の時代ではとにかく安くコーヒー豆を仕入れ、供給するというシンプルな仕組みができあがっていました。
これにより、コーヒーの低価格化による価格競争が進み、コーヒー生産者の賃金が減少、それにより担い手も減少、さらにそれにともなって品質が悪化。結果的に消費者の「コーヒー離れ」につながってしまいました。こうしたコーヒーの歴史的・経済的変遷により、コーヒーそのもののあり方を見直すためにスペシャルティコーヒーという概念は生まれました。
生産者・農園を守り、かつ高品質なコーヒー豆を消費者へ供給するにはどうすればいいか?この疑問に答えるために、「とにかく安いものを」ではなく、「品質を良くする」という方向にシフトしていったのです。
そもそも、スペシャルティコーヒーは、コーヒー自体をカテゴライズする言葉であり、サードウェーブコーヒーはコーヒー文化のトレンドや流行に焦点を当てた言葉です。
繰り返しますが、スペシャルティコーヒーは、コーヒーの歴史的・経済的変遷により、コーヒーそのもののあり方を見直すため生まれた概念です。つまりスペシャルティコーヒーは「コーヒーの生産体制の変遷」という歴史的な文脈で生まれています
一方で、サードウェーブコーヒーは「ファーストウェーブ~セカンドウェーブ~サードウェーブ」というコーヒーの「文化的変遷」から生まれた「コーヒーの3つの波」の1つです。にもかかわらず両者が同じ文脈で語られることがあるのは、普及年代や理念に共通点を持つことが関係しています。
では「ファーストウェーブ~サードウェーブ」がどのようなコーヒー文化のことを指すのかも含めて、スペシャルティコーヒーとサードウェーブコーヒーの関係性を詳しくご紹介します。
発祥年代 | 日本への到来 | 特徴・文化 | |
---|---|---|---|
ファーストウェーブ (第1の波) | 19世紀 | 1960~1990年代後半 | ・大量生産大量消費を重視 ・浅煎り嗜好 |
セカンドウェーブ (第2の波) | 1960年代 | 1996年 | ・シアトル系カフェ ・深煎り嗜好 |
サードウェーブ (第3の波) | 1970~2000年代初頭 | 2015年 | ・コーヒーを飲む「体験」の重視 ・浅煎り嗜好 |
サードウェーブとは「コーヒーの3つの波」の1つです。第1の波(ファーストウェーブ)は世界においては19世紀ごろから始まったとされ、日本には1960~1990年代ごろに訪れました。第2の波(セカンドウェーブ)についても、世界では1960年代に起きましたが、日本には1996年ごろに訪れています。世界で起こったコーヒーの波は日本には遅れてやってきます。
このような潮流の中で、直近で起きた波がいわゆる「第3の波(サードウェーブ)」です。1970年から2000年初頭が発祥とされているこの潮流はノルウェーのオスロから始まりました。独特なコーヒー哲学を持ったサードウェーブの担い手たちはサードウェーバーと呼ばれ、彼らの理念は瞬く間に世界に波及。日本には2015年ごろに本格的な到達をし、一躍ブームとなりました。
「サードウェーブ」と「スペシャルティコーヒー」はほぼ同時期に日本へ到来して、広まったため、しばしば同じ文脈上で語られてしまうことがあります。
世界的に見るとスペシャルティコーヒーという言葉は1974年に使われ始めました。当時は最先端を行く「これからのコーヒー」を指す言葉だったのです。一方でサードウェーブという言葉は2003年頃から使われ始めます。サードウェーブという言葉は喫茶店文化など、コーヒー文化の歴史を踏まえた「これからのコーヒー文化」を示すものです。
世界ではサードウェーブは1970年代から2000年代初頭に生まれましたが、一方のスペシャルティコーヒーの発祥は1960年代とされています。しかし、2015年ごろにサードウェーブが本格的に到来し、スペシャルティコーヒーも同時期にやってきています。なぜこのようなズレが生じたのでしょうか。その理由の1つには発祥した年代と人々に認知される時期は異なるという点が挙げられます。
例えば世界最初のスペシャルティコーヒー協会であるアメリカスペシャルティコーヒー協会の設立は1982年、次のブラジルスペシャルティコーヒー協会の設立は1991年です。日本スペシャルティコーヒー協会の設立はそこから約10年経った2003年。つまり、スペシャルティコーヒーが認知され世界的に動き出すのはサードウェーブの年代にぶつかっています。こうしたタイムラグを経て、2015年ごろにサードウェーブが到来、それと同時期にスペシャルティコーヒーのブームも始まることに。
発祥年代が早くとも、実際に人々に認知されるまでに時間がかかります。スペシャルティコーヒーとサードウェーブは発祥年代が違うものの、認知された年代は同じであると言うことができます。
「コーヒーの新たな価値創造」を目的にするという共通点
世界的な潮流として、コーヒーの地位向上というものがあります。スペシャルティコーヒーは「高品質」「付加価値」を追求するという観点を持っており、一方でサードウェーブコーヒーは「コーヒーを飲むという体験の重視」という観点を持っています。このようにコーヒーの価値を追求するという点で両者は共通しています。
サードウェーブの発想である「コーヒーを飲む体験の重視」はスペシャルティコーヒーの「From Seed to Cup」という概念と親和性が高いため、しばしば同じ文脈で語られてしまうのでしょう。
スペシャルティコーヒーを語る際によくあげられるのが「カップオブエクセレンス(COE)」です。ここではカップオブエクセレンスの概要・スペシャルティコーヒーとの関係性を紹介します。
カップオブエクセレンスとは、1年で特に優れた品質のコーヒー豆を決定する品評会を指します。この品評会で「トップオブトップ(Top of Top)」と呼ばれる最高品質のコーヒーが選出されるため、世界中のバイヤーたちが良質な豆を落札しようと参加します。
国際審査員の評価のもと、トップオブトップは選出されます。独自のルールで定められた点数評価によるランク付けがあり、86点以上を獲得できなければトップオブトップとは呼ばれません。
「コーヒーに付加価値を与える」という観点から見ると、カップオブエクセレンスとスペシャルティコーヒーの共通点が浮かび上がります。スペシャルティコーヒーの特徴的な発想は「生産者の利益も確保する」ということ。実はカップオブエクセレンスにもこの理念は根付いています。
スペシャルティコーヒーはコーヒー豆に付加価値をつけることでコーヒー栽培・消費の活発化を図る仕組みです。それに加え、点数でコーヒー豆に格付けを行うことによってさらに付加価値を高めるのがカップオブエクセレンス制度です。
「スペシャルティコーヒー」という付加価値をつけるだけでなく、さらにその中から点数によってトップオブトップを選出。高品質のコーヒー豆にはより高い付加価値をつけることで最終的に農園へさらなる利益が確保されます。
カップオブエクセレンスでの最終落札価格はそのまま生産者の利益になるため、良質なコーヒー栽培への意識も高まります。また一度入賞するとバイヤーとの継続的なつながりが生まれることも。このように付加価値をつけるだけでなく、継続的な関係のきっかけとしてもカップオブエクセレンスは機能しています。生産者が高品質なコーヒーづくりをすることで報われる制度、それがカップオブエクセレンスなのです。
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日本スペシャルティコーヒー協会の要項にもある「適切な抽出」という項目。この項目に明確な回答をすることは非常に難しいでしょう。なぜならコーヒーにはひとそれぞれの好みがあるからです。人によってスペシャルティコーヒーの「適切な抽出」は変わってしまうのです。
そこでスペシャルティコーヒーにおすすめの抽出法を「自由度の高さ」という観点から紹介していきます。スペシャルティコーヒーを味わってみたいという方はぜひ参考にしてみてください。
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今回はスペシャルティコーヒーについて紹介しました。なかなか理解しづらいスペシャルティコーヒーと通常のコーヒーとの違いがお分かりいただけたのではないでしょうか。スペシャルティコーヒーの魅力はなんといってもまったく違った観点から生まれた新しい味にあります。「From Seed To Cup」という理念のもと、農園から一杯のコーヒーまでを見守る工夫がなされているのです。一風変わった発想から生まれたスペシャルティコーヒー。ぜひこの機会に試してみてください。