ネルドリップ式コーヒーは、通常のペーパードリップとはどのような点が違うのでしょうか。この記事では、ネルドリップ式コーヒーの概要や魅力、自宅でもおいしくいれる手順や器具のお手入れ方法についてわかりやすく解説しています。
Contents
ネルドリップ式コーヒーとは
ネルドリップ式コーヒーとはどのようなコーヒーなのでしょうか。ペーパードリップとの違いについてもご紹介します。
布製フィルターを使ったコーヒー抽出方法の1つ
ネルドリップは、コーヒーの抽出方法の1つです。「ネル」と呼ばれる布製のフィルターを使用して、コーヒーをいれます。ネルは「フランネル」の略で、フランネルとは、柔らかく軽い毛織物のことを指します。 ネルドリップは、コーヒーの抽出方法の中でも長い歴史があり、コーヒー愛好家からも人気のある「最もおいしい抽出方法」と呼ばれているいれ方です。
コーヒー飲用の歴史においては、コーヒーの粉とお湯を鍋で煮てコーヒーカップに注ぎ、粉が沈殿するのを待ってから上澄みを啜って飲むスタイルが長く続いていました。
現在でも、トルコではそのスタイルで飲まれていますし、コーヒーが初めて発見されたエチオピアでも、コーヒーの粉を煮出す方法による伝統的な飲み方がされています。
上澄みを啜って飲むスタイルのコーヒーは、飲む際口の中に微粉が混入して口当りにザラつきが生じます。
このザラついた口当りが好ましくなかったため、布で“濾す”という方法がフランスで考案され、現在のネルドリップ式コーヒーの発祥となったとされています。
ネルドリップ式コーヒーとはポットに布袋をたらし、コーヒーの粉を入れ、上から熱湯をかけ、コーヒーをろ過したものです。
ネルドリップ式コーヒーを提供するお店では、一度に大量のコーヒーを抽出する方法で提供しているケースも少なくありません。
以前の喫茶店では、まとめてコーヒーをいれておき、湯煎(保温)にかけ、注文が入ったら温めたカップに注いで提供するスタイルが一般的でした。
しかし、この方法では時間の経過と共に劣化するため、注文の都度抽出する「1杯抽出のペーパードリップの器具」が1959年に日本の器具メーカーにより発売されました。
1杯抽出型のペーパードリップ器具が発売された当時は「こんなに小さい器具でコーヒーをいれることが出来るのか…」と驚かれたのだそうです。
現在普及している多くのネルドリップは「ネル」と呼ばれる布製フィルターを使い、1杯から抽出可能な器具も販売されています。
ネルドリップはお店だけでなく、ご自宅で楽しむコーヒーファンから根強い人気のある抽出方法の一つともなっているのです。
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ネルドリップとペーパードリップの違い
ネルフィルターは、片面が起毛状となり、内側にして、コーヒー粉に触れる側にして抽出します。ネルフィルターはペーパーフィルターと比較すると目が粗く、コーヒー豆に含まれるオイル成分が多く抽出されるため、味わいは滑らかでボディ感が強い傾向となります。
一方ペーパーフィルターは、比較的すっきりとした味わいとなるのが一般的です。これは紙製のフィルターの細かい繊維が、コーヒー粉のオイル成分や雑味などを適度に濾しとるためといわれています。
ネルドリップの魅力
ネルドリップでいれたコーヒーの味や、ネルドリップの魅力についてご紹介します。
「もっともおいしい抽出方法」と呼ばれることも
ネルドリップをすることの醍醐味は、「手間」をかけて抽出することです。 紙製のフィルターであれば「使い捨てができる」という手軽さから、60年代以降は、ペーパードリップが浸透していきました。
一方でネルドリップは、ネルを繰り返し使用することから、水洗いや保管に手間がかかるため少数派になってきました。 しかし、その「手間」こそが「おいしさの秘訣」として、一部のコーヒー愛好家から支持を得ています。
手間をかけてドリップをすることで得られる滑らかな舌触りと甘みのある味わいは、ペーパードリップとはまた異なった趣があり、ネルドリップが「最もおいしい抽出方法」と呼ばれる所以でもあります。
ネルドリップでいれたコーヒーはどんな味?
ネルドリップでいれたコーヒー は、まったりとした口当りがあり、飲みごたえの満足感が特徴です。また味わいにほんのりとした「甘み」が感じられるのも特徴です。 これは抽出時にネルフィルターを形に沿わせる事をしないため、コーヒー粉と共にネルフィルターが四方八方に良く膨らみます。
そして内側の起毛がクッションとなって緩やかに抽出されるため濃度感がありつつ、布目が粗いことから「コーヒーオイル(油分」」が抽出されることが理由です。
一方でペーパーフィルターは、比較的「すっきり」「クリア」な味わいになります。 これは、ドリッパーという形に沿わせているため、コーヒー粉の膨らみは上部に限られます。かつペーパーフィルターが雑味と共にコーヒーオイルを吸収しているからと言われています。
ネルドリップでいれるのは手間がかかる?
ネルドリップはペーパードリップと比べて、コーヒーをいれる際に手間がかかるといわれることがあります。実際にはドリップの手間というよりも、使い捨てのペーパーに比べて、ネルの扱いや器具の手入れが手間だと感じることがあるのかもしれません。
とはいえ、ネルドリップ式コーヒーならではの魅力もあるため、時には手間そのものを楽しんでみることをおすすめします。
ネルドリップのいれ方:準備編
ネルドリップの基本のいれ方をご紹介します。
必要な器具の準備
はじめに、必要な器具の準備をします。
1. ネル
まずはネルを準備します。 抽出したいコーヒー の量に応じたネルを準備しましょう。
2 .ハンドル
ネルを装着する専用のハンドルです。 ネルの大きさに応じたものを準備しましょう。
3. ネルドリップ専用サーバー
ネルドリップは専用のサーバーを準備します。 専用のサーバーがない場合は、ペーパードリップのサーバーも使用できますが、ネルとハンドルを立てる「スタンド」が必要となります。
4. ケトル
コーヒー抽出専用のケトルを使用します。 専用ケトルは、注ぎ口が長細く、お湯をコントロールしやすくなっています。
ケトルを選ぶ際はお湯を沸騰するまで温めても突沸になりにくいものを選びましょう。突沸とは、 沸点以上の過熱状態になっている液体が、突発的に激しい沸騰を起こす現象のことです。
やかんなどで沸騰させると、お湯が注ぎ口から溢れ出ることがありますが、コーヒー抽出専用のケトルは、注ぎ口が長いため突沸を防ぐことができます。
また、ステンレス製のケトルは保温性が高く、抽出に重要な温度のコントロールがし易いという特徴があるためおすすめです。
5. コーヒー豆
新鮮でおいしいコーヒー豆をご用意ください。 今回は、キーコーヒーの「トアルコ トラジャ」を使用しています。
「浅煎り」~「深煎り」の中から、お好みのコーヒー豆を選んでください。
6. カップ
抽出後、すぐにカップへ注げる状態にするため、事前にカップを用意しておきましょう。
ネルの下準備
器具の準備ができたら、ネルの下準備を行います。
1. (ネルが新品の場合)コーヒー粉と煮る
新品のネルを使う場合は、まずぬるま湯でしっかりと「糊気」を落とします。
布が浸かるくらいのお水を入れた鍋にコーヒー粉を入れ(目安として水が500ccの場合はコーヒー粉5gくらい)、沸騰したら弱火にして、沸かない程度に15~20分間煮ます。
この方法で、新品のネルにコーヒーの成分をなじませます。
2. 水洗い
煮込み終わった後は鍋から取り出して、コーヒー粉が取れるまで流水で洗います。 新品でない場合は、冷水に保管している布を取り出し流水で洗います。 しっかりと水洗いができたら、水気がなくなるまで絞ります。
水洗いする際の注意点としては、 高い温度で洗うと、ネルに残ったコーヒーの油脂分が不快な香りになることがあります。温度が高くなると布にしみ込んだ成分が溶け出してくるためです。
コーヒーは香り物なので、布自体に香りがあると、味に影響を及ぼしてしまう可能性があるため注意しましょう。
3. 水気がなくなるまで絞る
水洗いができたら、水気がなくなるまでしっかり絞ります。 3~4回、繰り返してください。
絞れているかどうか判断するポイントとしては、ネルの起毛面が「毛羽立っているか」どうかに注目します。
起毛が寝ているのは「絞りが足りない」状態です。絞りが足りないと抽出時のお湯の温度が下がるため、抽出効率が悪くなり、香りや味わいに影響します。
絞り方のコツは、少し毛羽立っている方を外側にして絞ることです。ネルの厚みのある部分は、水が溜まりやすいため、特にしっかりと絞りましょう。
4. ネルをハンドルにセットする
縫い目が外側になるようにして、ハンドル用の縫い目に通していきます。
5. ネルの形を整える
ハンドルに通せたら、縫い目のない方を内側にしてコーヒー粉が入れられるように形を整えます。
熱湯を準備し、器具をしっかりと温める
ネルの下準備が終わったら、器具を温めていきます。
1. 湯を準備する
ケトルには8分目程の湯を沸かしておきます。 湯が少ないと注ぐ時の傾けが大きくなり、湯のコントロールがしづらくなりますので、出来上がり量の2~2.5倍の量は用意しましょう。
2. ドリップサーバーを温める
ネルドリップ用のサーバーに湯を入れて温めます。 温めることで、抽出時のコーヒーを保温でき、濾されたコーヒー液の温度低下を防ぐことができます。
3. カップも温めておく
カップにもお湯を注いで、温めておきます。 出来上がったコーヒー液の温度が下がってしまうのを防ぐとともに、香り高いコーヒーを長く楽しむことができます。
このように、抽出前から「器具を温めておく」という一手間が、コーヒーをよりおいしく楽しむための秘訣です。
4. ネルをセットする
お湯を捨てて、コーヒーサーバーが十分に温まっていることが確認できたら、ネルをのせます。 ネルのセットができたら、下準備は完了です。
ネルドリップのいれ方:抽出編
ネルドリップの準備が整ったら、いよいよ抽出していきます。
コーヒー粉の準備
抽出に必要なコーヒー粉の準備をします。
1. コーヒー粉を量る
ネルにコーヒー粉を量り入れます。コーヒー粉10gを使用し、出来上がり量は120cc(コーヒーカップ8分目)とするのが1杯分を抽出する際の一般的な分量です。
今回はネルドリップ用に中挽きにしたものを用意しました。2杯分なので20gのコーヒー粉を入れます。
2. 粉をならす
少しネルをゆすって、コーヒー粉の表面を平らにします。 これでセット完了です。
蒸らし
コーヒー粉をセットしたら、次に蒸らしを行います。
1. ケトルは熱源から外し、1回目のお湯を注ぎます。 中央からゆっくりとお湯を注ぎ、コーヒー粉全体にお湯を染み込ませます。
2. ネル全体にお湯が染み込むと、ポタポタとコーヒー液が落ちはじめます。
3. この時にネルの中をのぞくとキラキラした泡が出ていることが確認できます。
キラキラとした泡が消えると、次に穴がボソボソと出てきます。 穴がボソボソと出てきているということは、コーヒー粉の中心にまでお湯が浸透して、ガスが抜けているということです。
これが「蒸らし」の工程です。蒸らしはコーヒーをおいしくいれる上で、最も重要な工程となります。
抽出~完了
1回目の抽出で蒸らしを行ったら、2回目以降の抽出を行って出来上がりです。以下で手順を確認しましょう。
1. 「蒸らし」が完了したら、2回目を注ぎます。ケトル注ぎ口を中央で上下して泡を出します。
2. 中心から泡が出てきたら、泡の周りをゆっくり「の」の字を描くように1周注ぎます。
その際はネルに湯が直接かからない様に注ぎます。
ネルにかからないようにする理由は、 お湯がネルにかかるとコーヒーに十分に触れずに、抽出された液体が落ちてしまい、薄いコーヒーになってしまう可能性があるからです。
ネルの気持ち内側にお湯をかけるようにすると、外側にも内側にもお湯が行き渡って正しく抽出が行えます。
3. お湯を注ぐと泡が丸いお饅頭みたいに膨らみ、その後凹んできます。
凹んでいく動きが止まる前に、次のお湯を注ぎます。
新しい泡は前の泡より白っぽくなるので、この白っぽい泡の層が消えないうちに次のお湯を注ぎます。 3回目以降も2回目と同じ方法で、計5~6回位に分けて注ぎます。
4. 出来上がり量になったらネルを取り外し、ボールに受けます。
「蒸らし」から「ネルの取り外し」までは、約3分間が目安となります。
いれ終わった後の粉の表面に「泡が残っている」と注ぐタイミングが良かった目安となり、雑味がコーヒー液の中に入っていない事にもなります。
5.抽出されたコーヒーは下の方が濃くて上の方が薄くなるので、軽く揺すり濃度を整えるかスプーンなどで混ぜ、温めたカップへ注ぎ分けます。
これでネルドリップの抽出が完了です。
ネルドリップを楽しむためのポイント
器具のお手入れや布の管理など、自宅でネルドリップを楽しむために押さえておくべきポイントもご紹介します。
器具のお手入れについて
ネルで抽出した後に行う器具のお手入れは、以下のような手順になります。
1. 抽出後のコーヒー粉を捨てる
抽出が完了したら、ネルに残っている抽出後のコーヒー粉を捨てます。
2. 水洗い
捨てきれなかったコーヒー粉を洗い流し、微粉がなくなるまでしっかりと洗います。 最初の水洗いと同様、流水で洗います。
3. 保管する
ネル全体が浸かるまで冷水と氷を入れ、蓋付きの容器で冷蔵庫に保管します。 ご家庭でも朝昼晩の3回は、水を交換するようにしましょう。
水の交換が難しい時は、氷をたくさん入れて冷蔵庫に入れておくのがおすすめです。あるいは、水枕をつくる要領でチャック付の袋に入れて冷凍し、使う時に流水で解凍する方法もあります。
布の管理が重要
ネルドリップでは「布の管理」がとても大切です。その布を使用の都度洗い、固く絞ってから使用します。
いれ方では、1番初めの蒸らしでおいしさが決まります。その後の2回目に「おいしそうな泡をたっぷりと膨らませられるか」が大切です。この2回目までで、コーヒーの味の半分以上が決まります。
また、いれ終わったコーヒー粉の表面に泡が残っているかどうかも大切です。泡が残っていると注ぐタイミングが良かったこと、上手にドリップができていることなどが分かります。
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ネルドリップに関わらず、ドリップをすることはある程度の手間がかかります。しかし、手間がかかった分だけ「おいしさ」は倍増します。ぜひ、ていねいにドリップをする過程を楽しんでください。そして、おいしいコーヒーを飲んでくださいね。